僕は、焙煎が出来ない。
カウコーヒーの生豆300グラムを手にして考えて1秒、あの男がすぐに浮かぶ。
Q グレーダーのセミナーに一緒に参加していたのに、このカウコーヒーを貰えなかった、あの男。
沼津市でコーヒー豆屋を営む、
アンティークドアの一場。
彼もカウコーヒーを貰える予定だった。
しかし、このセミナーの後半は、ひたすら試験、試験、試験。
カウコーヒーを貰うタイミングを逃し、マックスはハワイへ帰ってしまっていた。
そんな一場に焙煎を頼むと、
300グラムしかないということは、彼の焙煎機では1回しか焼くことが出来ないという。
100グラムずつ3回やるのは、ダメ。
つまり、チャンスは1回。
しかも一場はカウコーヒーを焼いたことがない。
なぜなら、カウコーヒーはなかなか手に入らず、代わりにそこから近いコナコーヒーだと高価すぎて手が出ないからだ。
そこで彼が考えたのは、カウコーヒーのコーヒー品種と同じ、それでも比較的安いパプアニューギニアの豆を焼いてみることだ。
テスト焙煎とはいえ、パプアニューギニアの農家さんが一生懸命育てたコーヒー、無駄にはできない。
1サンプル、
2サンプル、
3サンプル…
色々な焙煎を試みる。
焼いては持ってきてもらい、味を見る。
そしてそれぞれ、焙煎から日が経つにつれどんな変化をしていくかまた味を見ていく。
それを何日も繰り返していくうちに、一場の顔に疲労の色が濃くなっていった。
うちで扱っている豆、全部これやってたら、僕死んじゃいますよー
と言う一場。
それでもサンプル焙煎を止めようとしなかった。
そんなある日、
これ、感で焼いたから再現出来ないですけど味を見てください、といって持ってきた1つのサンプル。
焙煎のデーターをとる機械があるらしい。
釜の温度だとか、焙煎時間だとかが分かるものらしい。
それが何故か途中で動かなくなった。
一場は仕方なく、彼の言葉で書くと、
「感焼き」
をするしかなかった。
勘ではなく、感じて焼くのだ。
何を感じて焼くんですかと聞くと、
香りらしい。
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